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    第6条 – 研究開発機関の責務等

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    条文原文

    (研究開発機関の責務等)
    第六条
     大学、科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律(平成二十年法律第六十三号)第二条第九項に規定する研究開発法人その他の人工知能関連技術の研究開発を行う機関(以下「研究開発機関」という。)は、基本理念にのっとり、人工知能関連技術の研究開発及びその成果の普及並びに専門的かつ幅広い知識を有する人材の育成に積極的に努めるとともに、第四条の規定に基づき国が実施する施策及び前条の規定に基づき地方公共団体が実施する施策に協力するよう努めるものとする。
     国及び地方公共団体は、人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する施策で大学に係るものを策定し、及び実施するに当たっては、大学における研究活動の活性化を図るよう努めるとともに、研究者の自主性の尊重その他の大学における研究の特性に配慮しなければならない。
     研究開発機関は、人工知能関連技術の研究開発を効果的に進めるに当たっては、人文科学及び自然科学に関する多様な分野の知見を総合的に活用することが必要であることに鑑み、学際的又は総合的な研究開発に努めるものとする。

    【概要】

    第6条は、人工知能関連技術に関わる研究開発機関、特に大学や研究開発法人などに対して、その役割と責務を明確にした条文である。単なる研究推進にとどまらず、成果の社会還元、人材育成、他主体との協力、さらには学際的な知見の統合といった多面的な活動を求めている点に特徴がある。また、国や地方公共団体に対しても、大学の研究特性に配慮した政策形成を求めており、研究現場の自律性を守りつつ、政策との連携を図るバランスが意識されている。

    【解説】

    本条は、研究開発機関がAI推進政策の基盤的存在であることを前提に、その果たすべき役割を多角的に定義している。

    まず第1項は、研究機関に対して三つの柱を提示する。

    1. 研究開発の推進
    2. 成果の普及
    3. 人材育成である

    これらはいずれも、第3条の基本理念と深く結びついており、特に第3項で触れられた「基礎研究から活用に至るまでの総合的・計画的推進」との整合性が高い。

    また、ここでは単に研究することのみならず、その成果を社会に還元する「普及」活動も明記されている点が重要である。これは、同法第11条が定める「成果の移転のための体制整備」とも対応するもので、研究成果の実装力がAI政策全体の成否を左右するという認識がにじむ。

    さらに、国(第4条)および地方公共団体(第5条)による施策との協力が明示されていることから、研究開発機関が政策実現の「担い手」であると同時に、「協力主体」としての機能も担うことが読み取れる。

    第2項では、大学における研究活動への配慮が義務づけられている。これは、官による過度な統制がイノベーションの柔軟性を阻害しかねないという認識に基づくものであり、大学における研究の「自由」と「活性化」の両立が重視されている。企業法務の観点では、大学との共同研究契約や委託研究契約を締結する場面において、この研究者の自主性への配慮が要求される点は実務的にも留意が必要である。

    第3項は、いわゆる「文理融合」の考え方を明文化した部分である。人工知能という技術領域の特性上、単なる自然科学的なアプローチのみではなく、倫理、法、社会学といった人文的・社会的知見の統合が不可欠である。この観点は、第13条の「適正性の確保」や、第16条の「調査研究等」とも呼応する内容であり、技術の社会的影響を踏まえた総合知の必要性を示している。

    こうした学際性の重視は、企業においても自社の技術開発体制やAI活用体制を検討する際のヒントとなる。例えば、社内に法務・倫理・技術が連携するAI利活用会議体を設置することなどが、法の趣旨に適合する取り組みとなり得る。

    【まとめ】

    第6条は、人工知能関連技術の研究開発を担う研究開発機関に対して、技術的成果の創出とその社会実装、人材育成、政策連携、そして学際性の確保という多面的な責務を課している。これにより、研究活動が単なる知の探究にとどまらず、社会全体への波及力を持つ「公共的営み」として位置付けられている点が特徴である。

    また、同条は、研究者の自主性と創造性の保護という基本的価値を尊重しつつ、公共政策との整合性を保つという微妙なバランスを意識した構造になっている。このような法の意図を正しく理解し、企業や大学、自治体、研究機関がそれぞれの立場から役割を果たすことが、AI政策の実効性を高める鍵となる。

    企業法務の現場では、大学との契約交渉、人材育成型研修の設計、社会実装フェーズにおけるパートナーシップ構築などにおいて、本条の趣旨を反映させることが望まれる。とりわけ、研究者の創造的自由や学際的連携を妨げない契約設計が求められる点は、実務担当者にとって重要な視点となるであろう。