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条文原文
(事務)
第二十六条 本部に関する事務は、内閣府において処理する。
概要
本条は、人工知能戦略本部に関する事務の所管を定める規定である。本部は内閣に置かれる組織であるが、その事務処理主体を内閣府に一元的に位置づけることによって、実務上の窓口や権限の所在を明確化している。本条は、AI推進法第四章における「人工知能戦略本部」に関する規定群の一部として、組織体制の実務的基盤を構成している。
解説
一 本条の位置づけ
第26条は、人工知能戦略本部の事務を内閣府が担うことを規定するものである。本部自体は第19条により「内閣に置く」とされているが、内閣そのものは合議体であり、戦略本部の事務を取り扱うのに十分な事務局機能を持たない。そのため、内閣府という行政機関に事務処理を委ねることで、本部の活動を実質的に支える体制を確立している(内閣府は行政機関としての法人格を持ち、予算や人員を自律的に運用できるため、長期にわたり計画的な政策推進を担うのに適している)。
この点、第21条以下で本部の組織(本部長=内閣総理大臣、副本部長=官房長官及び担当大臣、本部員=全閣僚)が規定されているが、これらは政治的リーダーシップを発揮する枠組みである。他方で、第25条の「資料提出・協力依頼」や第18条の「基本計画策定」などの継続的・技術的な事務を遂行するためには、専門的事務局が必要となる。その担い手が、本条に基づき内閣府に設けられる事務局ということになる。
二 内閣府における事務処理の意味
内閣府は、内閣官房と並んで政策の総合調整を担う組織であり、AI推進法の根本目的である「総合的かつ計画的な推進」(第1条、第19条参照)を実現する上で適切な母体とされている。とりわけ、科学技術・イノベーション政策、デジタル社会形成政策といった既存の横断的施策との調整が不可欠であるため、複数省庁にまたがる政策を統合できる内閣府が指定されているのである。
また、内閣府が処理主体とされることにより、関係省庁や地方公共団体、研究開発機関、活用事業者との調整窓口が明確になる。このことは、第25条の協力要請規定と連動し、各主体にとっての対応先が一本化される効果を持つ。
三 他条文との関係
- 第19条(設置)との関係
第19条では「内閣に置く」とされるが、内閣に属する行政機関で事務を担う主体が明示されないと、実務上の混乱が生じるおそれがある。本条はこの空白を埋め、行政法上の整合性を確保する役割を果たす。 - 第20条(所掌事務)との関係
第20条で本部の所掌事務が規定されているが、実際にこれを実務として遂行するのは内閣府職員である。本条は第20条を実効的に担保する条文と理解できる。 - 第27条(主任の大臣)との関係
第27条は、本部に係る主任の大臣を内閣総理大臣と定める。これにより政治的責任の所在が明確化される一方、本条により事務の執行機関が内閣府とされ、政治と事務の分担関係が制度上整理されている。 - 第28条(政令委任)との関係
本部に関し必要な事項を政令に委任する規定であり、本条に基づく内閣府での事務処理の具体的体制(例えば事務局の内部部局の設置や所掌範囲の細目)は、政令を通じて整備されることになる。
四 実務への影響
企業法務担当者にとって、本条の意義は次の二点に集約できる。
(一) 行政対応窓口の一元化
本条により、AI推進法関連の問い合わせ、資料提出、指導・助言の実務的窓口が内閣府に置かれることが明らかとなる。企業にとっては、規制や支援策に関する調整先が明確になり、実務上の予測可能性が高まる。
(二) ガバナンス・リスク管理の指針
本条に基づく内閣府の事務処理機能は、企業が対応すべき指針の策定や情報提供(第13条・第16条参照)と直結する。そのため、AIを活用する企業にとっては、内閣府の発出する文書やガイドラインを継続的にフォローする体制整備が不可欠となる。
さらに、実務面では、AI倫理やデータガバナンスに関する国際的規範(第13条・第17条参照)が内閣府を通じて国内施策に反映される可能性が高い。企業は、法的拘束力を持たない段階でも、内閣府事務局からの要請やガイドラインを事実上の規制として取り扱う必要があるだろう。
まとめ
第26条は、一見簡潔な規定であるが、人工知能戦略本部を制度的に機能させるための実務的基盤を定めるものである。本部の設置(第19条)、所掌事務(第20条)、政治的責任(第27条)と有機的に結びつき、内閣府を中核とした行政運営体制を確立している。
企業法務担当者にとっては、AI推進政策の行政窓口が内閣府に集中することを意味し、規制や支援の両面で内閣府の動向を注視することが不可欠となる。本条は短文であるが、実務的な重みは大きく、法務戦略の策定にあたり留意すべき規定であるといえる。
慶應義塾大学大学院博士課程を経て、大学の常勤研究員として「法律エキスパートシステム」(旧世代AIによる法的推論支援)の研究に従事。その後、国会議員の政策担当秘書として、制度設計や立法の実務に携わる。現在は、公共政策の知見を活かした予防法務サービスを展開している。
著書:『10分でサクッとわかるAI推進法』