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    第20条 – 所掌事務

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    条文原文

    (所掌事務)
    第二十条
     本部は、次に掲げる事務をつかさどる。
    一 人工知能基本計画の案の作成及び実施の推進に関すること。
    二 前号に掲げるもののほか、人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する施策で重要なものの企画及び立案並びに総合調整に関すること。

    概要

    第20条は、内閣に設置される人工知能戦略本部(第19条)の具体的な所掌事務を定めるものである。本部の役割は、(1)人工知能基本計画(第18条)の案を作成し、その実施を推進すること、(2)その他人工知能関連技術の研究開発及び活用に関する重要施策の企画・立案・総合調整を担うことである。本条は、人工知能推進政策の中核的機能を明示するものであり、いわば「司令塔」としての本部の位置づけを制度的に確立している。

    解説

    一 本部と人工知能基本計画の関係

    第一号で規定される「人工知能基本計画の案の作成」は、第18条と密接に関連する。第18条は、政府が基本理念(第3条)や基本的施策(第11条から第17条)を踏まえて「人工知能基本計画」を定めることを定め、その手続として内閣総理大臣が閣議決定を求めると規定する。他方で、本条第1号により、計画の案を実際に作成するのは人工知能戦略本部である。すなわち、第18条第20条を合わせ読むことで、「計画案は戦略本部が起案し、内閣総理大臣がこれを閣議に付する」という流れが体系的に理解できる。
    また、第18条第4項が人工知能基本計画の公表義務を定めていることから、本部は計画案の作成にとどまらず、その後の実施推進まで担うことが確認できる。この点で、本部の責務は単なる調整機関ではなく、PDCAサイクルを回す中心機能を担うことになる。

    二 重要施策の企画立案と総合調整

    第二号は、基本計画以外にも人工知能関連技術に関する重要施策を広く包含する規定である。例えば、第13条の「適正性の確保」や第16条の「調査研究等」に基づく新たなガイドライン整備や調査事業などは、重要性に応じて本部が総合調整を行うことになる。
    さらに、本部が担う「総合調整」は、縦割り行政の弊害を排除する役割を持つ。人工知能技術の特性上、科学技術政策(文部科学省)、産業政策(経済産業省)、個人情報保護や消費者保護(個人情報保護委員会、消費者庁)、安全保障(防衛省)、労働市場(厚生労働省)など多岐にわたる分野に関与する。本条により、これらの施策が断片化するのを防ぎ、戦略本部が一元的に調整する仕組みが制度的に裏付けられたと評価できる。

    三 他条文との関係

    まず、第4条が国の責務として「総合的かつ計画的に施策を策定し実施する」と規定しているが、その具体的実施主体として位置づけられるのが第19条以下の戦略本部である。本条はその中核的事務を列挙したものであり、いわば第4条の責務を具体化する条文である。
    また、第9条は国・地方公共団体・研究開発機関・活用事業者間の「連携強化」を定めている。本条第2号の「総合調整」は、第9条の理念を制度面で実現する装置であると理解できる。つまり、理念規定(第9条)を実効化するための組織的基盤が本部の調整機能である。

    四 企業法務実務への影響

    企業法務担当者にとって重要なのは、本条に基づき戦略本部が策定・調整する施策やガイドラインが、実務上のコンプライアンス義務やリスク管理に直結する点である。
    例えば、第13条に基づく「適正性確保」のための指針は、本部の調整を経て策定される可能性が高い。その場合、企業にとっては事実上の規制基準として作用し、製品開発やサービス提供の在り方を拘束する。また、第16条に基づく調査研究の成果が公表されれば、事実上、企業はこれを踏まえた内部規程やリスクアセスメントを行う必要が生じる。
    さらに、国際協力に関する第17条と本部の総合調整が連動すれば、国際規範やOECD・EU等のAI規制動向を踏まえた国内方針が迅速に反映されることになる。企業法務としては、国内法だけでなく国際規範との整合性にも留意することが求められる。

    五 ガバナンス上の意味

    戦略本部は内閣総理大臣を本部長とし(第22条)、全閣僚を本部員とする(第24条)。その所掌事務を定めた本条は、政策の統合性を確保するためのガバナンス機能を示す条文でもある。AI政策が各省庁の利害を超えて調整されることを担保する点に、本条の制度的意義がある。

    まとめ

    第20条は、人工知能戦略本部の中核的事務を規定するものであり、人工知能基本計画の作成・実施推進(第18条)と、重要施策の企画立案・総合調整という二本柱で構成されている。他条文との関係を踏まえると、本条は第4条の国の責務を具体化し、第9条の連携強化を制度的に支える条文である。企業実務においては、本部が策定・調整するガイドラインや施策が事実上の規範として作用するため、動向を注視し、迅速に内部体制へ反映することが不可欠である。本条は短文ながら、AI推進法体系の中核を担う条項として理解されるべきである。