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条文原文
(定義)
第二条 この法律において、「人工知能関連技術」とは、人工的な方法により人間の認知、推論及び判断に係る知的な能力を代替する機能を実現するために必要な技術並びに入力された情報を当該技術を利用して処理し、その結果を出力する機能を実現するための情報処理システムに関する技術をいう。
概要
本条は、本法律の適用対象となる「人工知能関連技術」の定義を規定するものであり、本法全体の射程を定める根幹的条文である。
定義の中核には、「人間の知的能力の代替」および「情報処理システムとしての実装機能」が位置づけられており、単なるAIそのものにとどまらず、それを支える周辺技術も広く含まれる構成となっている。
この定義を起点として、以降の条文における政策的措置、規範的義務、制度的枠組みが展開されることから、企業や研究機関における「該当性判断」において実務上きわめて重要な役割を果たす。
解説
一 定義規定の意義
本法は、題名にもあるとおり「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進」を目的とするものであり、その対象範囲がいかなる技術群を包含するのかを明確にする必要がある。そのために、第2条では「人工知能関連技術」という広義の技術概念が定義されている。
これはAI技術の急速な進化と多様化に鑑み、狭義の「AI(機械学習や生成AI等)」に限定せず、周辺の実装技術、システム処理技術までも包含することで、将来の技術展開や国際標準への柔軟な対応を可能にしている。
二 定義の構造
本条文は、以下の二要素を含む複合的定義となっている。
(一)知的能力の代替機能を実現する技術
「人工的な方法により人間の認知、推論及び判断に係る知的な能力を代替する機能を実現するために必要な技術」とは、機械学習、自然言語処理、画像認識、音声認識、推論エンジン等、AIの中核をなすアルゴリズムおよび学習技術を指す。
この部分がいわゆるAIそのものに該当し、ChatGPTのような生成AI、DeepMindによる強化学習型AI等もこの範疇に入る。
(二)情報処理システムとしての実装技術
「入力された情報を当該技術を利用して処理し、その結果を出力する機能を実現するための情報処理システムに関する技術」とは、AI機能を実装・運用するためのソフトウェア・ハードウェアを含む情報基盤であり、システムアーキテクチャ、API連携、クラウドコンピューティング環境、センサー処理技術等も含まれ得る。
この点で、AIエンジン単体ではなく、それを活用した応用製品(例:自動運転システム、チャットボット搭載のコールセンターシステム等)までが法の対象となる余地がある。
三 他条文との関係
本条における定義は、以下のように本法各所で横断的に援用されている。
(一)第1条(目的)との関係
本法の目的は、「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する施策の総合的かつ計画的な推進」であるが、その対象となる「人工知能関連技術」の具体的範囲が本条により確定される。
すなわち、第1条で言及される「施策の対象」は、本条で定義された技術群に限定されることになる。
(二)第3条(基本理念)との関係
第3条では、人工知能関連技術が経済・行政・安全保障において重要な基盤技術であると位置づけられている。ここでの「人工知能関連技術」も、当然ながら第2条の定義に準拠する。
特に、3条4項におけるリスク認識(犯罪利用、個人情報漏えい、著作権侵害等)に関しては、定義のうち「情報処理システム」としての性格が問題となる局面が多く、技術の全体構造を理解することがリスク評価においても実務的に重要となる。
(三)第13条(適正性の確保)との関係
第13条においては、研究開発及び活用の「適正な実施」を確保するため、国際的な規範に即した指針整備等が求められている。ここでの「研究開発」「活用」も、すべて第2条の定義に該当する技術についてのものである。
そのため、企業が第13条に基づくガイドラインに対応する際には、自社が扱う技術が第2条における「人工知能関連技術」に該当するか否かをまず確認する必要がある。
四 実務上の留意点
企業の法務部門にとって重要なのは、自社が提供するプロダクトやサービス、あるいは受託開発している技術が本法の「人工知能関連技術」に該当するか否かを適切に判断する体制を整えることである。
とりわけ、次のようなケースにおいては注意が必要となる。
- 生成AIのAPIを活用して構築したSaaSプロダクト
- センサー等の情報を基に自律制御を行うシステム(例:ドローン、ロボット)
- 医療診断支援システムにおける画像解析エンジン等
また、情報処理システムに関する技術が含まれることにより、従来のITシステムやIoT関連機器との境界が曖昧になることがある。該当性判断においては、単なる演算処理ではなく、「人間の認知・推論・判断の代替」という要素が技術の核心にあるかどうかがカギとなる。
まとめ
第2条は、AI推進法の適用範囲を決定する基準点として、全法体系にわたり基礎となる条文である。
定義は技術的には広範かつ抽象的であり、個別技術が該当するか否かの判断には、目的、機能、構成要素等を総合的に評価する必要がある。
実務においては、自社の技術が本条の「人工知能関連技術」に該当するかを見極めた上で、第3条以下の理念や義務の適用対象となるかどうかを確認することが、今後の法令対応およびガバナンス設計において不可欠となる。
慶應義塾大学大学院博士課程を経て、大学の常勤研究員として「法律エキスパートシステム」(旧世代AIによる法的推論支援)の研究に従事。その後、国会議員の政策担当秘書として、制度設計や立法の実務に携わる。現在は、公共政策の知見を活かした予防法務サービスを展開している。
著書:『10分でサクッとわかるAI推進法』