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    第14条 – 人材の確保等

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    【条文原文】

    (人材の確保等)
    第十四条
     国は、地方公共団体、研究開発機関及び活用事業者と緊密な連携協力を図りながら、人工知能関連技術の基礎研究から国民生活及び経済活動における活用に至るまでの各段階において必要となる専門的かつ幅広い知識を有する多様な分野の人材の確保、養成及び資質の向上に必要な施策を講ずるものとする。


    【概要】

    第14条は、AI推進に不可欠な人材の確保と育成を国の責務として明確に位置づけた条文である。基礎研究から社会実装までのあらゆる局面において、専門的で幅広い知見を有する人材が求められることから、国は地方公共団体、研究機関、企業等との連携の下、必要な施策を講ずることとされている。

    AI技術は極めて学際的かつ急速に進展する分野であり、本条の規定は単なる人材育成施策にとどまらず、AIを社会に根付かせるための制度設計、人材の流動性確保、教育制度の刷新などを含む包括的な政策の方向性を示すものである。

    【解説】

    一 条文の構造と趣旨

    本条は、人材確保政策に関する以下の三層構造を持つ:

    • 第一に、国が施策を講ずる主体であること。
    • 第二に、その実施にあたり、地方公共団体、研究開発機関、活用事業者との「緊密な連携協力」が要件とされていること。
    • 第三に、人材確保の対象は、基礎研究から国民生活・経済活動におけるAI活用までの「各段階」であり、そのために「専門的かつ幅広い知識を有する多様な分野の人材」が求められる点である。

    したがって、本条は狭義のAI技術者育成に限らず、応用、倫理、法務、教育、政策、経営等を含む、広義のAI人材戦略の基本方針を示す規定と位置づけられる。

    二 「緊密な連携協力」の意味と実務的意義

    本条は、単に国が人材育成を行うのではなく、地方公共団体(地方大学や高専、地域産業等を含む)、研究機関(大学、国研、企業研究所等)、活用事業者(AI実装のプレイヤー)との連携が不可欠であることを明示している。

    これは、現場のニーズに応じた人材育成が求められること、また、実務経験や産学連携による実装力の高い人材の育成が必要であるという現実的要請を反映したものである。

    企業法務の観点からは、これに基づく産学連携契約、研修制度の共催、公的補助金の活用、教育機関との人材マッチング支援などが制度化される可能性がある点に留意すべきである。

    三 「各段階」における人材とは

    本条が対象とするのは、AI研究開発および活用の「各段階」において必要とされる人材である。

    • 基礎研究段階:数理、統計、情報工学、自然言語処理、認知科学などの研究者
    • 応用開発段階:機械学習エンジニア、データサイエンティスト、AI設計者
    • 社会実装段階:プロダクトマネージャー、サービス設計者、UI/UXデザイナー、マーケティング担当
    • 利用・評価段階:法律専門家、倫理研究者、プライバシー担当、監査人、ジャーナリスト等

    このように、いわゆるSTEM人材に限らず、HASS(人文・社会科学)分野の人材も強く求められており、本条はそれを反映した文言設計となっている。

    四 「専門的かつ幅広い知識を有する多様な分野の人材」の意義

    本条において注目すべきは、「専門的かつ幅広い知識」「多様な分野」という表現である。これにより、本条は単なるAI技術スキルの習得者を想定しているのではなく、次のような複合的素養を有する人材を政策対象に据えていると解される:

    • 学際的視野:AIと社会、経済、文化との接点を理解する能力
    • コミュニケーション力:技術者と行政、企業と市民の橋渡しができる能力
    • 倫理的判断力:技術の影響を正しく評価し、透明性や説明責任に配慮できる能力

    こうした人材の育成は、単に大学の情報系教育ではカバーできないため、高校から社会人教育、再教育、リスキリング、社内教育などの多様な施策が必要となろう。

    五 関連条文との体系的関係

    (一)第3条第3項との関係

    本条が示す「各段階の関係者による取組」は、第3条第3項の基本理念と軌を一にするものである。法制度上、人材政策と理念との結合が図られている点で、本条は第3条の具体化条文と位置づけられる。

    (二)第11条との関係

    第11条が研究開発そのものの推進を定めているのに対し、本条はそれを担う人材の確保を定めている。技術の進展と人材の供給は相互依存関係にあるため、両条は車の両輪の関係にある。

    (三)第15条との関係

    第15条は、国民全体に向けたAI教育・啓発に関する規定であり、対象が広範であるのに対し、本条は研究開発・実装を担う人材に特化している。教育の普及と専門人材の育成を段階的に整合させる設計が意図されている。

    (四)第17条との関係

    AI人材の流動性や国際競争力を確保する観点から、国際協力の一環として人材の越境流動、留学支援、外国人研究者の受け入れなども、第17条との連動で進められることが予想される。

    六 企業法務への実務的影響

    企業にとって本条は、以下のような実務上の示唆を与える:

    • 公的機関との連携による人材育成プログラムへの参加、費用負担、インターン受け入れ等に対する要請が強まる可能性
    • 補助金、助成金、研究開発減税などの支援制度において、人材育成施策が評価項目となる可能性
    • 自社における社内教育、研修、リスキリングの体制整備に政策的支援が得られる可能性
    • 技術者採用において、特定大学・研究機関との連携構築が優位に働く構造

    【まとめ】

    第14条は、AI推進における人材確保と育成を国家的戦略課題として位置づけた中核的条文である。学術、産業、行政、地域社会が連携し、基礎研究から社会実装までを支える多様な人材の供給体制を築くことが、本条の目的である。

    企業法務にとっては、人材育成を単なるコストではなく、制度的に支援される戦略投資と捉える視点が重要となる。今後、行政施策との整合を前提とした教育・採用・研修のあり方が、法務戦略上の新たな検討課題となるであろう。