第10条 法制上の措置等
条文原文
(法制上の措置等)
第十条 国は、人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する施策を実施するため必要な法制上又は財政上の措置その他の措置を講ずるものとする。
概要
第10条は、AI推進法の総則を締めくくる条文であり、国が施策を「実施」するにあたり、法制面・財政面・その他政策面で必要な措置を講じることを定めている。単なる理念法に終わらせず、実行性を確保するための「裏付け条文」としての意味を持つ。本条を抜きにすれば、第11条以下の基本的施策は理念規定にとどまってしまう危険があるため、実務上も極めて重要な規定である。
解説
一 総則の集大成としての第10条
第10条は、第1条の目的規定および第3条の基本理念を「具体的な政策実施に結びつける」役割を果たす。
つまり、第10条は「手段の明示」であり、総則章を締める規定として不可欠である。
二 第11条以下の施策を支える「法制上の措置」
本条がなければ、第11条以下の施策は財源も制度も欠いた理念に終わる。具体的には以下の通りである。
(一)第11条との関係
第11条は「基礎研究から実用化まで一貫した研究開発推進」を規定するが、これを実効化するには研究助成制度、特許制度、技術移転制度などの法制上の措置が不可欠である。例えば、研究成果の移転を容易にする技術移転促進法制の改正や、AI特許の権利処理に関する制度設計がここに含まれる。
(二)第12条との関係
第12条は「施設及び設備の整備及び共用の促進」を規定している。ここでは大規模計算資源やデータセットの共用が想定されるが、個人情報保護法や著作権法との調整、公共調達制度の見直しなど、法制上の措置が必要となる。
(三)第13条との関係
第13条は「適正性の確保」を掲げる。AIの透明性・説明可能性・安全性の確保は、ガイドラインだけでは不十分で、将来的には法律や省令による規制が求められる。これを可能にする根拠が第10条である。
(四)第14条との関係
第14条は「人材の確保等」を規定する。AI人材育成のための大学制度改革、留学生制度、資格制度の導入には法改正が必要であり、本条の「法制上の措置」が裏付けとなる。
(五)第15条との関係
第15条は「教育の振興等」を定める。教育課程の改訂や教員免許制度の改正など、教育関連法令への措置は第10条を根拠に行われる。
(六)第16条との関係
第16条は「調査研究等」を規定する。調査権限を行政機関に付与する場合には新たな法制上の措置が不可欠である。
(七)第17条との関係
第17条は「国際協力」を規定する。国際的な条約や協定の国内的効力を確保するための法制上の措置は、第10条によって担保される。
三 財政上の措置による裏付け
本条により、第11条から第17条までの施策に必要な予算措置が可能となる。研究助成金、施設整備費、教育投資、国際会議参加費用など、いずれも財政支出が伴う。企業にとっては、この財政的裏付けが公的補助金・助成制度として具体化するため、第10条を注視することは資金戦略に直結する。
四 その他の措置の柔軟性
「その他の措置」は、法制・財政に限られない幅広い政策手段を含む。
- 官民連携のプラットフォーム設置
- 規制サンドボックス制度の運用
- AI利用に関する指針や倫理規範の策定
これらの柔軟な施策を可能にするのが第10条である。
五 実務的含意
企業法務担当者にとって、第10条は二重の意味を持つ。
一つは、今後AIに関する新たな規制・法改正が行われる根拠条文であるため、規制強化のリスクを予測する手掛かりとなること。
もう一つは、補助金・助成金などの財政支援の制度的根拠であり、資金調達や税務戦略の観点でチャンスとなることである。
まとめ
第10条は、AI推進法における「実効性確保の要」と位置づけられる。
- 法制上の措置により、研究開発から適正利用、国際協力までの施策が法制度に裏付けられる。
- 財政上の措置により、研究資金や施設整備、人材育成などが現実化する。
- その他の措置により、柔軟な政策対応が可能となる。
結果として、第11条以下の具体施策は、第10条による裏付けがなければ実効性を欠き、絵に描いた餅となる危険がある。逆に言えば、第10条の存在によって、AI推進法は理念法にとどまらず、実際の政策効果を発揮するための実行力を持つのである。
慶應義塾大学大学院博士課程を経て、大学の常勤研究員として「法律エキスパートシステム」(旧世代AIによる法的推論支援)の研究に従事。その後、国会議員の政策担当秘書として、制度設計や立法の実務に携わる。現在は、公共政策の知見を活かした予防法務サービスを展開している。
著書:『10分でサクッとわかるAI推進法』