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条文原文
(設置)
第十九条 人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する施策を総合的かつ計画的に推進するため、内閣に、人工知能戦略本部(以下「本部」という。)を置く。
概要
第19条は、AI推進法の中核的機関である「人工知能戦略本部」の設置を定める規定である。本部は、AI関連施策を「総合的かつ計画的に推進」することを目的に、内閣の下に設けられる。本条は、続く第20条以下において所掌事務(第20条)、組織(第21条以下)、事務処理(第26条)などを詳細に規定するための根拠規定として位置づけられる。
つまり第19条は、AI推進法における制度設計上の「ハブ機能」を定める入口条文であり、第1条の目的規定や第18条の人工知能基本計画と密接に関連している。
解説
一 本条の位置づけ
AI推進法は、第1章で目的や基本理念(第1条~第3条)、国・地方公共団体・研究開発機関・事業者等の責務(第4条~第8条)、連携・法制上の措置(第9条、第10条)を定め、第2章で具体的な基本施策(第11条~第17条)を列挙し、第3章で「人工知能基本計画」(第18条)を設ける。そしてそれらの施策を実際に動かす司令塔として、第4章に「人工知能戦略本部」を設置している。
この体系から見ると、第19条は、AI政策を政府全体で総合調整する常設的組織の根拠規定であり、基本計画の策定・実施を担保する制度的裏付けを与えるものである。
二 「総合的かつ計画的推進」という要件
本条は、本部の設置目的を「総合的かつ計画的に推進するため」と明示する。ここには二つの意味が込められる。
(一)「総合的」とは、AIに関する研究開発、産業振興、国際協力、教育、倫理的対応など多岐にわたる政策領域を統合することである。実際、第2章の各基本施策(研究開発推進:第11条、人材確保:第14条、適正性の確保:第13条、国際協力:第17条など)は相互に関連し、個別省庁ごとに断片的に対応しては不十分である。
(二)「計画的」とは、第18条に定められた「人工知能基本計画」との連動を意味する。基本計画の策定権限が本部に与えられ(第18条3項、同条5項準用)、閣議決定を経て公表される仕組みが整えられていることから、本部は単なる調整機関ではなく、政策の方向性を主導する役割を担う。
三 内閣に置く意義
内閣に設置することは、本部を単なる一省庁の審議会や委員会にとどめず、政府全体を貫く統括組織とする意図を示す。第22条が内閣総理大臣を本部長と定め、第23条が官房長官及び担当大臣を副本部長とし、第24条が全閣僚を本部員とする仕組みは、AI施策が一部の分野に限定されず、国の横断的課題であることを象徴している。
また、内閣府に事務局を置き(第26条)、主任の大臣を内閣総理大臣と定める(第27条)ことで、政治的リーダーシップの下に施策が推進される体制を担保している。
四 他条文との関係
第19条は、第18条の人工知能基本計画と直結する。計画の策定権限を担保するのは本部であり、その法的存在根拠が本条である。さらに、第20条以下に列挙された事務・組織規定は、本条を受けて具体化されるものであるため、本条は第四章全体の前提規定となる。
また、第1条の目的規定は「人工知能戦略本部を設置することにより」と明示的に本部設置を法律の中心要素として位置づけており、本条は目的条文の具体化条項ともいえる。
五 企業法務実務への影響
企業法務の観点から見ると、第19条の意義は以下の点にある。
(一)政策の一元化による規制・支援の見通し
AI関連施策が各省庁に分散するのではなく、本部を通じて基本計画に統合されるため、企業は中長期的な規制方針や支援策の方向性を把握しやすくなる。特に第13条(適正性の確保)や第14条(人材育成)、第17条(国際協力)に関する施策が、基本計画を通じて具体化される際、企業の遵守すべきルールや利用可能な支援スキームが明確化される。
(二)政策形成過程へのアクセス窓口
本部は第25条により地方公共団体や研究機関、特殊法人に資料提出や協力を求める権限を持つが、実務的には企業からの情報提供や意見聴取も政策形成過程で行われることが想定される。企業法務担当者は、自社のリスク対応に加え、業界団体等を通じて政策形成に参画する可能性を視野に入れる必要がある。
(三)横断的規制の可能性
AI推進法は直接的な規制法ではないが、本部の下で策定される基本計画や指針が、将来のガイドラインや個別法改正に波及することは確実である。企業法務担当者は、本部の動向を中長期のコンプライアンス・リスクマネジメントの一環としてモニターすることが重要となる。
まとめ
第19条は、AI推進法における制度の中核であり、政府横断的にAI施策を統合・推進する「人工知能戦略本部」の設置根拠を定める。目的条文(第1条)、基本施策(第11条~第17条)、基本計画(第18条)と密接に結びつき、実質的にはAI政策の司令塔機能を与える規定である。
企業法務の観点からは、AI政策の一元化による予見可能性の確保、政策形成過程への関与、横断的規制の把握が重要であり、第19条を入口に本部の活動動向を把握することは、実務におけるリスク管理・戦略形成の基盤となる。
慶應義塾大学大学院博士課程を経て、大学の常勤研究員として「法律エキスパートシステム」(旧世代AIによる法的推論支援)の研究に従事。その後、国会議員の政策担当秘書として、制度設計や立法の実務に携わる。現在は、公共政策の知見を活かした予防法務サービスを展開している。
著書:『10分でサクッとわかるAI推進法』