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【条文】
(連携の強化)
第九条 国は、国、地方公共団体、研究開発機関及び活用事業者が相互に連携を図りながら協力することにより人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進が図られることに鑑み、これらの者の間の連携の強化に必要な施策を講ずるものとする。
概要
第9条は、AI推進法において中心的な位置を占める「連携」の概念を明示的に規定した条文である。すでに第4条から第8条にかけて、各主体(国、地方公共団体、研究開発機関、活用事業者、国民)それぞれの責務が定められているが、本条はそれらの責務が並列的に存在するだけでなく、相互に補完・連携し合う関係にあることを制度的に確認したものである。
とりわけ、AIの研究開発と社会実装は単独主体では達成不可能であるとの前提に立ち、関係主体間の連携を促進する施策を講じることを国に求めている点に、本条の核心がある。
解説
一 制度体系上の位置づけ
本条は第1章「総則」の終盤に位置づけられており、それ以前の各主体の責務を包括・統合する役割を担っている。すなわち、第6条から第8条にかけて、研究開発機関、活用事業者、国民に対して「基本理念にのっとった努力」を求めてきたが、本条ではそれらの行為主体が「相互に連携を図りながら協力する」ことが、AIの発展にとって不可欠であるという理念を明文化している。
また、第4条(国の責務)における「施策の総合的かつ計画的推進」の具体化の一端でもある。さらに、第20条第2号において、人工知能戦略本部の所掌事務として「総合調整」が掲げられており、戦略本部による実務的な調整機能とも制度的に連携する内容となっている。
二 「相互に連携を図りながら協力する」ことの意義
本条のキーワードは、「相互に連携を図りながら協力する」である。単なる「協力」ではなく「連携を図る」ことを前提としている点に注目すべきである。すなわち、各主体が独立して努力するのではなく、双方向的な意思疎通と共通目標に基づく協力体制が求められている。
これは、AI関連施策が単一の技術開発や政策実施にとどまらず、研究・産業・教育・倫理・国際協力といった広範な領域にまたがるものであるため、関係主体の連携なしには実効性を確保できないという現実に対応したものである。
また、第3条第3項でも「基礎研究から実用化までの各段階の関係者の取組が相互に密接な関連を有する」とされており、本条はこの理念の実施条項として機能する。
三 「必要な施策」とは何か
本条の後段では、国に対して「連携の強化に必要な施策」を講ずる義務を課している。この「必要な施策」は法律上の列挙規定はないが、他条文との関係から以下のようなものが含まれると考えられる。
1 情報共有のためのプラットフォーム構築(第11条、第12条、第16条と連動)
2 人材の相互交流、クロスアポイントメント制度の導入(第14条との連携)
3 共同研究開発の支援(第11条)
4 地方自治体と民間企業とのマッチング支援(第5条、第7条)
5 ガイドライン・標準化文書等の共同策定(第13条)
これらは、単なる情報提供にとどまらず、実際の制度設計・運用プロセスにおける協働体制の整備を指向するものである。
四 企業法務への示唆
企業法務の観点から見ると、本条が意味するのは「AI利活用をめぐる規制・政策は、関係主体の連携に依存して形成されていく」ということである。したがって、自社の取組が孤立していてはリスクであり、次のような姿勢が求められる。
- 研究機関との連携による共同開発スキームの構築
- 地方公共団体との共創事業への参画
- ガイドライン策定プロセスへの意見表明・パブコメ対応
- 複数主体によるコンソーシアムの形成・参加
- 知的財産やデータ利活用に関する契約実務の標準化
企業がこれらの施策に能動的に関与することは、単に社会貢献という視点にとどまらず、将来的な法制度や業界標準に影響力を持ち、自社に有利な環境整備につながる戦略的行動ともなりうる。
まとめ
第9条は、AI推進法の構造の中で、関係主体の「つなぎ目」を制度的に保障する役割を担っている。各主体の責務を並列に規定するだけではなく、それらが協調的に活動しうる前提としての「連携の強化」を明文化することで、本法全体の実効性と統合性を確保している。
本条の核心は、以下に集約される。
- AIは多領域・多主体にまたがる技術であり、制度設計にも横断的連携が不可欠であることの確認
- 国がその連携体制のハブとして調整・支援を行うことの明文化
- 企業法務にとっては、AI政策形成過程への関与や業界内連携を通じた競争優位性の確保が、今後の経営戦略上の重要課題となることの示唆
今後、AIに関する法規制や国際的標準化が加速する中で、本条に基づく「連携のプラットフォーム化」が制度面・実務面の双方でますます重要性を増していくと考えられる。
慶應義塾大学大学院博士課程を経て、大学の常勤研究員として「法律エキスパートシステム」(旧世代AIによる法的推論支援)の研究に従事。その後、国会議員の政策担当秘書として、制度設計や立法の実務に携わる。現在は、公共政策の知見を活かした予防法務サービスを展開している。
著書:『10分でサクッとわかるAI推進法』