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【条文原文】
(調査研究等)
第十六条 国は、国内外の人工知能関連技術の研究開発及び活用の動向に関する情報の収集、不正な目的又は不適切な方法による人工知能関連技術の研究開発又は活用に伴って国民の権利利益の侵害が生じた事案の分析及びそれに基づく対策の検討その他の人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に資する調査及び研究を行い、その結果に基づいて、研究開発機関、活用事業者その他の者に対する指導、助言、情報の提供その他の必要な措置を講ずるものとする。
【概要】
第16条は、AI関連技術の「活用状況」を調査・研究し、必要な施策を講ずることを国の責務として定めたものである。これは、単にAI技術の導入が進んでいるか否かを確認するものではなく、どのように、どの分野で、どのような課題を伴って活用されているのかという、より実態に即した動態的把握を目的としている。
他の条項が「開発」や「人材育成」「教育」など制度的整備に重点を置いているのに対し、本条は「現場における実態の把握」を制度化することで、政策サイクルのPDCAの「C(チェック)」を担う位置づけにある。
【解説】
一 条文の趣旨と役割
AI関連技術は、導入される領域ごとに影響が大きく異なり、期待される効果も、発生するリスクも多様である。そのため、国としては単に研究開発や導入促進を進めるだけでなく、活用状況の実態を定期的・客観的に把握する必要がある。本条はその「制度的根拠条文」であり、現場の声を政策に反映させるための中継地点のような役割を果たす。
また、技術の進展に伴い、新たな社会的リスクや倫理的課題が表面化する可能性もあるため、活用状況の調査研究はリスク管理や制度整備の前提情報としても極めて重要である。
二 調査研究の対象と意義
(一)調査研究の範囲
「活用の状況に関する調査研究」は広義に解されるべきであり、以下のような多面的観点を含むと解される:
- 導入率・普及率(業種・業態・地域別のAI活用の広がり)
- 成果・課題(効率化、精度向上、誤作動、倫理的問題など)
- ユーザー視点での評価(使いやすさ、納得感、信頼度)
- 労働市場への影響(雇用・業務内容の変化)
- 社会的格差や偏在の有無(都市/地方、業種間格差など)
(二)国の役割と各主体との関係
本条では、国が主導するかたちで、地方自治体・研究機関・企業などとの「緊密な連携協力」が求められている。特に、実際にAIを活用している「活用事業者」からのフィードバックや協力は、調査の信頼性を担保するうえで不可欠である。
企業にとっては、こうした調査協力に対応する体制やルールを整備しておくことが、将来的な行政対応やステークホルダー向け説明責任の観点からも有益となる。
(三)国際的な文脈
本条のような調査研究の制度化は、OECDの「AI原則」やEUの「AI法案(AI Act)」などにおける「信頼性確保」「説明責任」「監視・監督」にも合致する。各国でAI活用の透明性確保や影響評価が求められる中、日本においても定期的な「状況把握」を法的根拠に基づいて実施することは、国際的整合性を保つためにも不可欠である。
三 関連条文との体系的関係
(一)第6条(施策の評価等)との関係
第6条は「施策の効果の検証」を求めており、本条がそのデータ的基礎となる。第6条が政策全体のメタ評価であるのに対し、第16条は個別施策(とくにAIの社会実装)についての事実把握を担うものであり、両者はPDCAサイクルの一部として相互に補完する。
(二)第11条(研究開発)、第13条(活用促進)との関係
研究開発(第11条)や活用促進(第13条)が制度の「設計」であるのに対し、本条はその「運用結果」を把握するフェーズに位置づけられる。技術導入の現場で起こっていることを適切に把握し、研究開発方針や活用支援策の見直しにつなげるための重要なブリッジである。
(三)第14条・第15条(人材育成・教育)との関係
人材育成施策や教育プログラムの有効性を確認するためにも、AI技術がどの程度活用され、どう社会に影響しているかという実態の把握は不可欠である。本条に基づく調査結果が、教育政策(第15条)や職業訓練(第14条)にフィードバックされる制度設計が望まれる。
四 企業法務への実務的影響
(一)調査協力への対応
企業は、行政からの協力要請(アンケート、ヒアリング、データ提供等)を受ける可能性がある。これに対しては、あらかじめ社内ルールを整備し、提供情報の正確性とコンプライアンス対応を担保する必要がある。
(二)情報公開と説明責任
AI活用に関する社内データや成果を、社会的責任として報告・開示する動きが強まることが予想される。特に上場企業では、人的資本や技術戦略の開示の一環として、AIの活用状況をESGや統合報告書等で報告する場面が増えると考えられる(なお、「情報公開・ESG開示」は第16条自体の義務でなく、社会的要請や今後の動向が大きく影響する)。
(三)内部監査やモニタリング体制
社内でAIがどのように利用され、どのようなリスクを伴っているかを可視化するための内部監査体制(AIガバナンス)が求められる。本条が定める調査研究の社会的要請に応えるためにも、企業内のモニタリング体制は重要性を増す(なお、法そのものが「内部監査体制(AIガバナンス)」を直接義務付けているわけではない)。
【まとめ】
第16条は、AI活用の「実態把握」を通じて、政策の適正な運用と修正を支えるための制度的基盤を提供するものである。調査研究の結果は、政策立案だけでなく、企業経営、教育、人材育成、消費者保護など、あらゆる領域の改善に資する情報基盤となる。
企業にとっては、単に「調査対象」として対応するにとどまらず、本条に基づく調査の結果を活用し、自社のAI戦略やリスク管理、ステークホルダーへの説明責任を果たす材料として積極的に活用していく姿勢が望まれる。
慶應義塾大学大学院博士課程を経て、大学の常勤研究員として「法律エキスパートシステム」(旧世代AIによる法的推論支援)の研究に従事。その後、国会議員の政策担当秘書として、制度設計や立法の実務に携わる。現在は、公共政策の知見を活かした予防法務サービスを展開している。
著書:『10分でサクッとわかるAI推進法』