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【条文原文】
(国の責務)
第四条 国は、前条に定める基本理念(以下「基本理念」という。)にのっとり、人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する施策を総合的かつ計画的に策定し、及び実施する責務を有する。
2 国は、行政事務の効率化及び高度化を図るため、国の行政機関における人工知能関連技術の積極的な活用を進めるものとする。
【概要】
本条は、AI推進法の中核的な主体である「国」が担う責務を明文化したものである。第1項では、基本理念に即した施策の策定・実施の義務を明記し、第2項では、行政分野における率先的なAI活用を促している。
本条の趣旨は、単に国の役割を定めるにとどまらず、法全体の運用責任の所在を明らかにすることにあり、他主体(地方公共団体、研究開発機関、活用事業者、国民など)に課される責務規定(第5条から第8条)の基礎的前提をなす。したがって、本条は法体系の運用責任の起点であり、また、政策形成と実装のハブである。
【解説】
1.第一項:理念から政策への橋渡し
第1項では、第3条に規定された「基本理念」にのっとって、国が施策を「総合的かつ計画的に」策定・実施する責務を負うことが明示されている。
「総合的かつ計画的に」という文言は、以下の制度と強く連動している。
すなわち、本条は国の責務の宣言にとどまらず、その下支えとなる組織体制や制度構築へと接続する構造を持つ。
さらに、計画的な施策は、単年度予算型では対応できないAI技術の発展速度や、国際動向を踏まえた機動性ある政策運用を可能にするものであり、その根拠が本条にある。
企業の立場からは、この条項によって明文化された国の推進責務を背景に、補助制度、税制措置、規制緩和などの支援策が整備されることが期待される。その具体例は、第二章以下の各条(第11条以下)に展開される。
2.第二項:国の率先的導入義務としての規定
第2項は、行政部門におけるAI技術の積極的な導入を国に対して求めるものである。これは、民間事業者や地方公共団体に先立ち、国が実践的なモデルを示すことによって、AI活用の標準化と信頼性向上を図る狙いがある。
とりわけ、次のような制度設計と密接に関係している。
- 第15条(教育の振興等)
→ 行政実務にAIを導入することで、行政サービスを通じて国民の理解と関心を高める。 - 第13条(適正性の確保)
→ 行政がAIを用いる場面でこそ、透明性・説明責任・非差別性といった倫理原則の実装が求められる。
また、行政機関におけるAI活用は、行政手続のデジタル化、災害対応、文書管理、調達・予算編成、許認可審査、さらには司法・立法支援領域など、多様な可能性を持つ。これらは将来的にガイドライン化や制度化が進み、民間事業者に波及的影響を及ぼすことになると考えられる。
したがって、企業としても、官公庁向けサービスを提供するベンダーの場合は特に、本条に基づく国の方向性を注視する必要がある。
【体系的関係と位置づけ】
本条は、第3条の理念と、第二章以降の施策条文との中間に位置し、理念を施策へと橋渡しする枠組条文である。
| 関連条文 | 関係性と位置づけ |
| 第3条(基本理念) | 本条が実現すべき理念的枠組み。各項の価値を実際の政策として具体化する役割を担う。 |
| 第5条(地方公共団体の責務) | 国の策定した施策との「適切な役割分担」に基づく。国の責務があってこそ、地方の役割が定まる。 |
| 第7条(活用事業者の責務) | 民間事業者の役割もまた、国の施策の方向性に依存する。民間が協力すべき「施策」の内容を規定する前提となる。 |
| 第18条(人工知能基本計画) | 本条の責務規定を制度化したもの。国家戦略を計画的に提示する義務の具体的表現。 |
このように、本条はAI推進法における政策責任の原点であり、他主体に責務を課す根拠規定でもある。
【まとめ】
第条は、AI推進法における国の中心的な責任と、推進役としての位置付けを明確にする重要条項である。
- 第1項は、理念の実現を担保するための国家政策義務を明記し、計画制度や戦略本部制度の上位根拠となる。
- 第2項は、行政分野における模範的なAI導入を促すことで、民間への波及効果や社会的信頼の醸成を狙う。
- 本条は、他主体に課される行動義務の論拠となる構造的な意義を持つ。
企業法務においては、政府主導のAI導入動向を見据えた上で、補助金やガイドライン制度の形成に備えることが重要であり、本条はその法的起点としての理解を要する。特に、行政機関向けにサービスを提供する事業者は、本条が政策推進の基礎条文であることを踏まえ、動向の変化を注視すべきである。
慶應義塾大学大学院博士課程を経て、大学の常勤研究員として「法律エキスパートシステム」(旧世代AIによる法的推論支援)の研究に従事。その後、国会議員の政策担当秘書として、制度設計や立法の実務に携わる。現在は、公共政策の知見を活かした予防法務サービスを展開している。
著書:『10分でサクッとわかるAI推進法』