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    第1条 – 法の目的

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    【条文原文】

    (目的)
    第一条
     この法律は、人工知能関連技術が我が国の経済社会の発展の基盤となる技術であることに鑑み、人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する施策について、基本理念並びに人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する基本的な計画の策定その他の施策の基本となる事項を定めるとともに、人工知能戦略本部を設置することにより、科学技術・イノベーション基本法(平成七年法律第百三十号)及びデジタル社会形成基本法(令和三年法律第三十五号)その他の関係法律による施策と相まって、人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図り、もって国民生活の向上及び国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。

    【概要】

    本条は、AI推進法全体の立法目的と基本的枠組みを規定する中核条文である。人工知能関連技術が「経済社会の発展の基盤」となるという基本認識を起点に、①基本理念の提示、②基本計画の策定、③戦略本部の設置、④既存法との連携という四つの柱を通じて、総合的・計画的な政策推進を目指す構成となっている。

    特に本条は、後続の条文群──たとえば、基本理念を定める第3条、政府の責務を定める第4条、AI基本計画を定める第18条、戦略本部を定める第19条以下──の上位に位置づけられる根本規範としての意味を有する。

    【解説】

    一 AI推進法の立脚点:「経済社会の発展の基盤」技術としてのAI

    冒頭に「人工知能関連技術が我が国の経済社会の発展の基盤となる技術であることに鑑み」とあるように、本法はAIを国家の根幹的技術インフラと位置づけている。ここには、従来のIT技術やロボティクスと比しても、AIには社会構造を横断的に変革する力があるという立法者の強い認識が伺える。

    この基本認識は、以下の条文群においてより具体化されている。

    • 第3条第2項では、「行政事務及び民間の事業活動の著しい効率化及び高度化並びに新産業の創出」をもたらす技術とされ、
    • 第4条以下では、国や地方自治体に対し、当該技術の推進を「責務」として課している。

    したがって、本条は単なる「理念」ではなく、法体系全体の施策設計の根拠を与える実定的な指導原理としての役割を担う。

    二 四本柱構成:本法の基本的アーキテクチャ

    本条において明示された構造は、以下の四つに整理される。

    (一)基本理念の確立(→ 第3条

    「基本理念の明示」は本法における中核的要素であり、第3条において具体的に展開される。特筆すべきは、AI技術の推進に際して、安全保障、国際競争力、倫理・人権、国際協調といった広範な社会的観点が盛り込まれている点である(第3条2項~5項参照)。本条はこの基本理念群の「憲法」的な地位を与える規範である。

    (二)基本計画の策定(→ 第18条)

    第18条において明文化される「人工知能基本計画」は、本条で予告される主要制度のひとつである。これはいわば、他法における「基本計画法」型の制度構造を踏襲するものであり、戦略的政策立案の基盤を形成する(特に第18条2項に掲げられる3類型の方針が要)。

    (三)戦略本部の設置(→ 第19条~第28条)

    AI政策の司令塔となるのが、内閣直属の「人工知能戦略本部」である(第19条)。本部の組織構成(第21条)、権限(第20条)、情報収集機能(第25条)などは、極めて強い政治的ガバナンス構造を与えるものであり、本条はその設置の憲法的根拠条文ともいえる。

    (四)他法との有機的連携

    「科学技術・イノベーション基本法」「デジタル社会形成基本法」など既存の基本法との連携が本条で言及されている点も、本法の大きな特色である。たとえば、イノベーション基本法の第3条には「社会的課題の解決としての技術活用」、デジタル社会形成基本法の第6条には「公共と民間のデータ活用推進」が規定されており、AI推進法がそれらの横断的架け橋として位置づけられていることが分かる。

    三 理念法としての位置づけと、実効性の担保構造

    本条は、行政法体系におけるいわゆる「理念法(フレームワーク・ロー)」に位置づけられる。

    理念法の一般的特徴は、①理念の提示、②計画制度の整備、③実施体制の構築という三層構造を通じて、政策全体を制度化する点にあるが、本法もまさにこれに該当する。

    具体的に見れば、

    • 第1条(目的)が理念と制度的枠組みを示し、
    • 第3条(基本理念)が価値基準と方向性を明示し、
    • 第18条(基本計画)により実行方針が定まり、
    • 第19条以下(戦略本部)により実施体制が整備される。

    この体系的構造により、理念法にありがちな「理念倒れ」のリスクを回避し、具体的施策への落とし込みが制度的に担保されている点が特筆される。

    企業法務においては、理念法だからといって軽視すべきではなく、むしろその「上位規範」としての性格ゆえに、他の個別法や指針・ガイドラインの解釈に決定的影響を与えうるという理解が求められる。

    四 AI基本法としての「三層構造」──理念・施策・実装の一体化

    本法全体は、次の三層構造を形成しており、本条はその要石である:

    構造層内容関連条文
    第1層(理念)AIを経済社会の基盤と位置づけ、推進の必要性と方向性を明示第1条(目的)、第3条(基本理念)
    第2層(施策)研究開発、人材、適正性確保、国際協力などの基本的施策第11条第17条
    第3層(実装)基本計画と戦略本部による具体的推進第18条第28条

    この構造は、企業のAI活用戦略にも直結する。たとえば、ガバナンス方針を社内で整備する際に、第3条の理念や第13条の「適正性の確保」が参照され、将来的には第18条に基づく「基本計画」によって業界横断的な指針が示されることも想定される。

    また、これら三層の関係性は、個別規制法(例:個人情報保護法、著作権法、労働安全衛生法等)とAI活用実務の交差点において、統一的な解釈基盤としての機能を果たしうる。

    五 他法との連携──「横串」としてのAI推進法

    本条後段には、他法との「相まって」という表現が用いられており、AI推進法が個別法とは異なる「横串」的な性格を持つことを明示している。

    本条が引用する他法の中でも特に以下の2法が重要である:

    • 科学技術・イノベーション基本法
      第3条に「社会の諸課題への的確な対応」としての技術活用を掲げており、AIをSDGsやカーボンニュートラルなどの文脈で利用する正当化根拠となる。
    • デジタル社会形成基本法
      → 国・地方・民間の役割分担を踏まえ、データ利活用とプライバシー保護の調和を理念としており、本法における「透明性の確保」(第3条4項)と整合的。

    さらに、企業法務上は、個人情報保護法、独禁法、著作権法、労働関係法などとの交錯が避けられない。今後、AIガイドラインや新法令が策定される際には、本条に示された「横断的視野」が解釈指針となる可能性が高い。

    【まとめ】

    第1条は、AI推進法の理念・構造・制度を総覧的に示す根本条文であり、以下の点で企業法務担当者にとっても重要な意味を有する。

    • 今後、AI活用の法的枠組み(適正性、ガバナンス、義務等)の基礎は、本条の理念と整合的に解釈されることになる(例:第13条「適正性の確保」、第7条「活用事業者の責務」等)。
    • 本条に基づき制定される「基本計画」や「指針」が、業界ガイドラインとして直接的に実務に影響する可能性がある。
    • 特にグローバル展開を視野に入れる企業にとっては、本条に盛り込まれた「国際協調」や「安全保障」への配慮(→第3条第2項・第5項、第17条)も実務上の検討対象となる。

    AI推進法第1条は、単なる宣言的規定ではなく、以下の機能を果たす中核条文である:

    1. 理念の上位規範性
      → 本法全体の解釈指針であり、企業のAI戦略における「行動原則」の根拠。
    2. 制度設計の起点
      → 基本計画と戦略本部という実行制度の正当化根拠であり、行政計画の「バックボーン」となる。
    3. 法体系上の接着点
      → デジタル基本法等との整合性を担保し、AI関連法制度の「司令塔法」としての性格を有する。

    企業法務実務においても、本条は今後の「AI規制法制」の拠り所となることが想定されるため、社内規程やAI利活用戦略の策定に際して、常にこの条文の理念と整合するかをチェックする視点が重要である。